就労、婚姻、留学等によりフランスに滞在することになると、健康保険(Sécurité sociale)や家族手当金庫(CAF)加入の際、あるいはフランス国籍取得、遺産相続などの際などに、Copie intégrale d’acte de naissance(出生証明書の全複写)及びその法定翻訳の提出を要求されることがあります。
お客様から「戸籍謄本からCopie intégrale d’acte de naissanceを作成してください」と言われることがありますが、法定翻訳者にとっては、実はこれが悩みの種。法定翻訳者にできるのは、お預かりした原本の忠実な翻訳だけなので、「戸籍謄本からCopie intégrale d’acte de naissanceを『作成』する」ことはできないうえ、日本とフランスでは戸籍制度が異なるため、正確に言うと、最新の戸籍謄本1通の翻訳がフランスのCopie intégrale d’acte de naissanceに当たるわけではないのです。
フランスのCopie intégrale d’acte de naissanceには、両親の氏名や生年月日、出生地等の出生に関する記録のほか、Mentions marginales(余白記載)という記載があります。これは、婚姻、別居、離婚、PACS(民事連帯契約)、認知、後見人の設定などが、その都度acte de naissance(出生証明書)の欄外に記載されていくものです。ですから、フランスのCopie intégrale d’acte de naissanceには、過去の婚姻、離婚等含め、出生から現在までのすべての身分事項が記録として残ります。
一方、日本の戸籍制度では、戸籍の改製(平成6年省令による電子化など、書式や様式の変更のこと)や転籍の際、婚姻により両親の戸籍を出て新しい戸籍を編製する際などに、過去の身分事項の一部が転載されません。たとえば、平成1年に結婚して、平成5年に離婚し、平成6年の法律による戸籍改製を迎えた場合、新しく作成される「全部事項証明」には婚姻や離婚の記載がされません。認知や親権にかかわる事項の一部も同様です。
つまり、最新の戸籍謄本や戸籍抄本に記載がなくても、もしかしたら過去に結婚して離婚をしているケースが考えられます。そうすると、子供が生まれている可能性もあり、特に相続などの際にはこれをCopie intégrale d’acte de naissanceと訳してしまうと、死亡者の戸籍謄本に記載のない子供には相続権が与えられないなどの可能性もあり、問題が発生してしまうかもしれません。フランスでの婚姻の際にも、実は離婚歴があるのに、初婚のように扱われてしまうなど、同じような問題が発生する可能性があります。
ですから、Copie intégrale d’acte de naissanceにあたる日本の戸籍文書が必要な場合、厳密には、本人の出生前に編製されて本人の出生が記録されている戸籍(通常は両親の婚姻の際に編製された戸籍)から、転籍、婚姻等による新しい戸籍編製、戸籍改製によって作成された新しい戸籍を含め、出生から現在までのすべての戸籍が必要になると考えています。ちなみに筆者は2年前、両親の戸籍をすべて揃えましたが、二人とも4通ずつありました。
そういった事情から、「戸籍謄本からCopie intégrale d’acte de naissanceを作成してください」というご要望には申し訳ないのですが、お応えしておりません。最新の戸籍謄本、全部事項証明などをもとに、翻訳者が「これがこの人物のすべての身分上の記録である」と保証することはできないからです。ただし、今まで「全部事項証明」や「戸籍謄本」をそのとおりに訳してフランスの役所から断られたことはありません。提出先の役所から「翻訳のタイトルがCopie intégrale d’acte de naissanceでないから書類を受理できない」と言われた場合には、提出先に対して日仏のシステムの違いを説明して理解していただきました。
大切なのは、戸籍に関する文書の中でどんな事項が必要なのかということです。単に出生に関する記録が必要なのであれば、フランスのCopie intégrale d’acte de naissanceに含まれる、過去の婚姻や離婚、認知などの記載は必要ありません。最新の全部事項証明、個人事項証明など1通で十分に事が足りるはずです。ですので、実際には難しいかもしれませんが、できれば提出先に対してどんな事項が必要なのかを下記のような質問形式で確認していただけるとよいと思います。
〔質問事項の訳:日本の戸籍システムはフランスのものと異なるため、「出生証明書の全複写」のように、身分事項にかかわる全情報を記載した書類は存在しません。そのため今回の手続きにおいて必要な事項をお知らせくださいますようお願いいたします〕
Nous n’avons pas le même système de registre d’état civil au Japon et il n’existe pas de « copie intégrale de l’acte de naissance » qui contienne toutes les informations de l’état civil dans un document unique, notamment les éléments des mentions marginales. Je vous remercie donc de préciser les éléments dont vous aurez besoin en vue de la démarche pour laquelle je vous sollicite :
Ma date de naissance(本人の生年月日)
Mon lieu de naissance(本人の出生地)
Noms et prénoms de mes parents(両親の氏名)
Nom de jeune fille de ma mère(母の旧姓)
Dates de naissance de mes parents (両親の生年月日)
Lieux de naissance de mes parents(両親の出生地)
Date de mon mariage(本人の婚姻日)
Nom et prénom de mon conjoint(e) (配偶者氏名)
Noms et prénoms de mes enfants (子供の氏名)
Autres informations d’état civil (précisez : ) その他の身分事項(内容: )